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マドリードから寝台急行ルシタニア号でリスボンに渡る。リスボンサンタアポローニャ発9時30分発のIR(インテルレジオナル=急行)でポルトへ。ポルト着13時15分。さらにそこからバスで市中のターミナルであるサンベント駅に行く。駅に着くとそのまま駅前の広場を横切りバックパック背負ってエッチラオッチラ歩くこと30分、ブラガ行きのバスターミナルにつく。さらに高速バスに乗ること1時間、午後3時過ぎにポルトガル北部の街ブラガに到着する。さすがに疲れた。
ブラガは教会が多い。リスボンは遊びの町、ポルトは働く町、コインブラは学びの町、そしてブラガは祈りの町と呼ばれている。それはいいのだが多くの教会は建築後、数百年は経過している。それが町の至る所にバカスカ建っていて、その殆どがメンテされていないので煤黒くなっており気味が悪い。私はバスを降りてめぼしいホテルを見つけてチェックインを済ますと今夜の試合会場、エスタディオ・デ・マイオに出かけた。スタジアムは町の中心から徒歩で20分程度の所にあり、それほど遠くない。
スタジアムの場所はすぐにわかった。うっそうと繁った森の中に教会に負けず劣らず古ぼけたスタジアムが立っている。場末の映画館のような・・そんな雰囲気。試合開始は午後9時なのであと2時間ある。私はとりあえずチケットを買った。場所は例によってバックスタンド中央席で価格は20ユーロ。日本円で2500円だからJ1と比べると安いがポルトガルの生活物価を考えると結構高い。お金を払ってチケットを受け取るとそれはソシオ用で額面は5ユーロ・・・。別に入れれば問題ないが、これってブラガにとって脱税にならないのだろうか。チケットの半券は公式な領収書のはずだが。
隣接する体育館で開催されているハンドボールの試合を見て時間を潰し、スタジアムに入る。外観から想像はしていたが、内部も相当荒れ果てた競技場である。陸上トラック併設のスタジアムなのだが、シートというものはない。競技場をグルッと取り囲んでいるのは石の階段で、観客はそこに腰を下ろして試合を見る。私もその石の上に座ってみるが、冷え切った気温と夜露のせいで尻が冷たい。この試合だけだからいいけれど、第二試合があったら確実に痔になるだろう。
スタンドは開放されたが観客は私一人である。試合開始1時間前になってもチラホラとしか来ない。警備の警官隊は何人もおり、彼らの視線は一斉に外国人である私に向けられる。スタジアムの写真を撮っていたこともあり、アイツは誰だ?と言う目で私を見る。不愉快であるが、これはこのスタジアムに限った事ではない。ヨーロッパでサッカーを見るとこういうことはしょっちゅうある。
試合開始20分前になっても客はこない。はっきり言ってJFLの国士舘大学のホームゲームのほうが人は多い。さすがに心配になってきた。それでも10分前あたりからドヤドヤと観衆が入場してきて私の周囲は賑やかになってきた。観客の年齢は50歳前後か。みんな顔が赤い。おそらくスタジアム周辺に開設された臨時屋台で飲んでいたのだろう。ガッハッハハッハと大声を出して喋っているのでご機嫌な様子がわかる。悪気はないのだろうけれど、私の頭に唾が飛んでくるので結構汚い。
段々席が埋まってくる。すると酔っ払ったルディ・フェラーのようなオッちゃんが近づいてくる。みんなが口々に「プロフェッソル!!」と叫ぶので結構偉い人なのだろう。もっとも大阪で言うところの「社長!」というのと大差ないような気もするが。
次に若い女の子が私の真横に座る。周りはまだ空席があるのでちょっと気になる。黒髪に碧眼というエキゾチックな顔立ちでなかなかキレイだ。スタジャンにブラガの赤いマフラーがよく似合う。こんな鉄火場のようなスタジアムに一人で来るとはたいした子だと思う。私が女の子を連れてサッカー観戦に来るとしたらとてもここにはこれない。
試合が始まった。ドイツのような場内を盛り上げようというアナウンスはない。ホームアウェイを特に意識したような選手紹介もない。淡々と試合は始まった。両チームともコンパクトなフォーメーションで、全員で押し上げ全員で守るという現代サッカーの見本のような試合である。アウェイのボアビスタのほうが格上なのでボアビスタがゲームを支配する。ただ特にチャンスがあるわけでもない。両チームともミスが多いし決定的チャンスがない。
ブラガにはサポーター集団もちゃんといて、ゴール裏に陣取っている。一応良く聞くメロディだが彼らだけで終わっているのでイマイチ迫力がない。ヨーロッパのサポーターと言うと、統率された大応援団というイメージがあるが、多くのチームのサポーターはこんなものである。
それにしても横の彼女はすごい。ブラガの選手がミスをすれば、ブツブツと独り言を言うし、携帯電話のタイマー機能をストップウォッチ代わりにしたりするし、やっていることは日本のマイナーサッカー狂のそれと同じである。国籍・性別を問わずサッカーバカはどこにでもいる。
点が入らないのでみんなイライラしてくる。彼らは酔っ払っているので罵声が出てくる。真面目にサッカーを見ているのは私と彼女だけである。罵声と怒声と口角泡が飛び交う中で時折見せる彼女の笑顔は、戦場の花と言うのか掃き溜めに鶴というのか完全に場違いな様相を呈している。
前半は無得点、後半も無得点。昨日の試合も0-2で負けということもあるが、ヨーロッパの試合はホームチームが点を取らないとどうしてもシラけてしまう。まあしょうがないかと思いながらロスタイムに突入した。残り時間は2分。その2分がすぎようとしたときにブラガはボアビスタのペナリティエリア直前で直接フリーキックを得た!ブラガ最後のチャンスである。
みんな祈る。彼女も祈る。私も一応祈っておく。一瞬静けさが走り、次にブラーガ・・ブラーガ・・と賛美歌のような合唱がエスタディオ・デ・マイーオを包んでくる。 ここで一発フリーキックを決めればまさに救世主降臨であったのだが世の中そんなに上手くいくはずもなく、ボールはゴールバーの上を外れ試合終了。みんな一斉に落胆した。負けはしなかったが点も取れなかったので指笛とブーイングが鳴り響く。と言ってもボアビスタは格上なのでそれほど酷い野次は飛ばない。しっかりしろよコノヤロ程度のものである。
みんな一斉に引き上げ始めた。私も引き上げた。観客の多くはまた屋台で飲み始めるのであっという間に私一人になった。暗い公園を抜け、大通りに出るとホッとする。 私はスタジアムでブラガのマフラーを買ったが、そのせいであろうか。すれちがう人が次々に「ブラガ?×××?」と聞いてくる。私が「ゼロゼロ、ドロー」と言うとみんなガッカリする。ブラガはまだみんなから愛されているのだろう。去年までここにいた広山も愛されていたのだろうか。お化け屋敷のようなエスタディオ・デ・マイオも来年のユーロ2004を機に近代的なエスタディオ・ブラガ・ムニンシパルに移る。そのときは彼女も新しいスタジアムでブラガの試合を見るのだろうか。
ホテルに戻る。もう午前0時を回っているが宿の主人は受付にいた。私がブラガのマフラーをしているのを見ると大層喜んでくれた。今日の宿泊は私一人のようだがユーロ2004の時は世界中からブラガに人がやってくる。そのときこの町はどう変わるのか楽しみである。 私は途中のベーカリーショップで買ったパンをほおばってそのまま寝た。明日はスペイン・ビーゴに入り、欧州チャンピオンズリーグ第4節、セルタ対アヤックスの試合を見る予定である。
(翌日に続く→)
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