(←前日の続き)
会社の同僚達は私が毎年この季節にヨーロッパに行くのはサッカーを見るためだと理解してくれている。ただ見るのがマイナーチームばかりなので例年は「行きます」「気をつけてね」で会話は終わってしまう。今回、マンチェスターユナイテッドの試合を見に行くといったら流石に部員全員から羨ましがられた。息子がファンなのでレプリカユニフォームを買ってきてくれと部長に頼まれた。その会話の中では私はまさに羨望の対象だった。ひとしきり会話が続いた後、「チケットはどうやって手に入れたの?」と聞かれたので、「ダフ屋から買います」と答えたら皆一斉に引いてしまい、羨望の対象はそこで終わった。
マンチェスターは晩秋の気配を漂わせていた。ロンドンのような都市にいると季節感が感じられないのかも知れないが、ロンドンをちょっと離れるとすぐに牧場に広葉樹という景色になり田舎感が出てくる。木々が色が赤や黄に染まって美しい。北海道もそうだけど、高緯度になるほど寒さが厳しくなるので紅葉の発色が良くなる。イギリスは運河の国で、鉄道に沿って走る水路に紅葉の葉が映えるのを見ると「旅の途中」という雰囲気が強く漂ってくる。
マンチェスターのユースホステルに投宿し、オールドトラフォードに向かう。ユースホステルの同部屋の青年がユナイテッドの赤レプリカを着込んでいる。試合を見に行くのか?と聞くと、もちろんとのこと。ということで2人でスタジアムに向かうこととなった。
スタジアムに向かう途中、少し話をしてみる。「どこから来たの?」「ケンブリッジから。彼方は日本人?」「そう。横浜から来た。ケンブリッジということは大学生か?」「ノンノン、高校生。」「マンチェスターの試合はよく見に来るのか?」「いや今回がはじめて。知り合いにチケットを譲ってもらった」「ケンブリッジユナイテッド(4部リーグ相当)は応援しないのか?」「・・応援しているよ。でも・・・」「でも?」「・・弱いしね。降格しそうだし・・」
降格しそうなら尚のこと気合入れて応援せんかい!と言いたくなったがそれは飲み込んだ。百数十年の伝統を誇る英国サッカーといえど、強いチームに人が集まるのはやむを得ないだろう。ジャイアンツではないけれど、全世界にマンチェスターユナイテッドのサポーターズクラブができているのを見ると、全国区のクラブ、という凄さを改めて感じる。地元弱小クラブより遠くのメガクラブに惹かれるのはやむを得まい。マンUだけでなく、バイエルンやユベントスなど、どこの国にもそういうチームが一つくらいはある。
トラムに乗ってオールドトラフォードに向かう。2両編成のトラムは赤いレプリカを着たサポーターで満員で乗車するのに苦労する。窓ガラスに頬を押し付けられながらオールドトラフォード駅着。ドッと人が降りる。一気に疲れた。 このオールドトラフォード駅からスタジアムを結ぶ道路は正に祭りそのもので、屋台が出て楽しい。チケット、チケットと大声を出して叫ぶダフ屋、そのすぐ脇を堂々と通る騎馬警官。怪しい雰囲気は無い。楽しい楽しいマンチェスター。私はビール、彼はコーラ。チップス片手に私達は歩く。ただし彼と私との間には大きな溝がある。彼はチケットを持っているが私は持っていない。途中の十字路で彼と別れる。さてどうやって調達しようか・・。
ダフ屋が次々に声をかける。アーセナルもそうだが何故こんなにダフ屋がいるのだろう。私はダフ屋は必要悪と考えているけれど、彼らがいなければひょっとしたら正規の価格で購入できるのではないかとさえ思えてくる。 まずスタジアムに行き、当日券があるかどうかを確認。当然の事ながら売り切れ。ダフ屋から調達する。ダフ屋はそこかしこにいてハエのように私にたかってくる。日本人はカモなのだろう。需要と供給が見事に一致しているのは複雑な気持ちである。
私は一人を呼び止めた。「いくらだ?」と私。ダフ屋は「いくらで欲しい?」 私は考えた。昨日のアーセナルの定価が47ポンドだった。ダフ屋交渉の基本は定価からである。「スタンドの場所は?」「イーストスタンド(ゴール裏)」「じゃ50ポンド」
「OK!」 「・・・?」あっさり交渉成立。おかしい。47ポンドのチケットを50ポンドで売るとは。ひょっとしてかなりだぶついているのか知らん。50ポンド札を1枚渡し、チケットをもらう。50ポンドで買えた理由がわかった。額面価格25ポンド。昨日のアーセナル戦の半額である。いったいイングランドのチケット体系はどうなっているのか。こういうところまで調べなかった私も悪いのだが、少しやりきれない。まあJリーグだって横浜FCのゴール裏が2000円で東京ヴェルディのバックスタンドが1969円なのだから、価格が滅茶苦茶な点は日本も他所の国のことは言えない。
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