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6月22日 決戦の日

その2:チケットがない!!

わかの観戦日記
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6月21日 まずは軽く鉄道から
その1:ミュングステナー橋
その2:ウッパータールの
モノレール
6月22日 決戦の日
その1:フットボール道場
その2:チケットがない!!
その3:日本-ブラジル戦
6月23日 デュッセルドルフ総領事館
デュッセルドルフ総領事館
6月24日 最後は軽く鉄道で締める
その1:ロマンチック・ライン
その2:カールスルーエのスタジアム
最終回:マインツの歓喜
 チケットが盗まれたことに気がついた時、心も体もしばらくはどうにもならなかった。
ひょっとしたらポケットの中にあるのでは?ひょっとしたらホテルに置き忘れたのでは?リュックサックの中にあるのではないか。そう考え続けた。しかし、よく考えるとそのすべては違うものだった。ワールドカップのチケットは鉄道の乗車券を兼ねている。ドルトムントに向かう列車の中で検札があり、私は車掌にチケットを見せている。そしてウエストバッグの中に確かに入れたのを覚えている。それがすべてない、ということはすられた以外になかった。日本から遠くドイツまで来て、金網の向こうにあるスタジアムを前にして、ここから一歩も先に進めないという現実を受け入れるしかなかった。呆然としている状態からだんだん我に返り始める。私は中央駅に引き返すことにした。
 スタジアムに向かう人の群れに逆らってトラムの駅に向かう。なんとかたどり着き、止まっている列車に乗り込む。行きはギュウギュウだったが帰りは誰も乗っていない。寂しい車内の中、窓越しにスタジアムを見る。発車すると涙が出てきた。
 事態は最悪を通り越しているのだが、私は今後の事を考えねばならぬ。今日はどうする?ホテルに戻るか。考えがまとまらないうちに列車は中央駅に着いた。
 もう私はホテルに戻ることを決めていた。パブリックビューイングで応援することも考えたが、とてもそんな気持ちになれなかった。ただ、パスポートについては再発行手続きをしなければいけない。そのためには警察に盗難届を出す必要がある。中央駅につくと私は駅員にの警察署の場所を聞いた。幸い警察署は駅内にあった。暗い地下道を通り駅舎の橋に行くと「PORIZAI」の標識があった。私はブザーを押し、中に入った。
 署員は数人いた。幸い全員が英語を話せた。うれしかったのは署員はフレンドリーで、まず私を席に着かせ落ち着かせてくれた。そして事情を聞きながら調書を散り始めた。 警官から見ればチケットよりもパスポートの盗難の方が重要なので領事館に当たってくれる。本来、日本領事館はもうしまっているが、今日だけ特別にドルトムント市内に出張所を開設していて午前1時まで営業している。警官はそこに電話をしてくれた。電話がつながり、おそらく領事館員だと思うが、一言二言会話をした後私につないでくれた。
 領事館員の話は次の通りだった。
「パスポートについては明日、デュッセルドルフの総領事館に来てもらえれば即日、帰国渡航書を発行します。午前中に来てください。チケットについては私の方はどうにもなりませんが、スタジアムのチケットセンターにはあなたの個人情報が記録されているはずです。警察署で盗難証明書を発行してもらえれば、ひょっとしたら再発行をしてもらえるかもしれません。」
 少し、明かりが見えてきた。チケットを再発行してもらえるかもしれない。私は礼を言って警官に電話を返した。警官は領事館員と何か話した後電話を切り、奥の部屋へ入っていった。その間、署内でずっと待っていた。他の署員は私にミネラルウォーターを差し出してくれた。炭酸の入った水が喉を潤わせてくれる。喉はカラカラに渇いていた。しばらくすると先の警官は盗難証明書を持ってきてくれた。まあがんばって挑戦してみろと。みんな励ましてくれる。私はそのフレンドリーな態度に救われた。日本の警察にこういう態度がとれるだろうか?


盗難証明書

 先のトラムでもう一度スタジアムに行く。スタジアムはさらにごった返していた。ヴェストファーレンシュタディオンのチケットセンターはスタジアムから少し離れたところにある。精神的にも肉体的にも疲れてきたが、希望があればまだがんばれる。
 チケットセンターは閑散としていた。クーラーが効いているのがうれしい。窓口はAからZまで26箇所あり、どうやらチケット引替者の名前別に並ぶらしい。私は再発行なのでそのどれにも当てはまらない。受付の職員に事情を話す。職員は困惑した表情をして、何も書いていない窓口に連れて行ってくれた。「その他」に該当する窓口なのだろうか。
 窓口の人に盗難証明書を差し出し、一生懸命事情を伝える。チケットは正規に入手していること、盗まれてしまったので再発行してほしいこと。窓口の人はかなり困った顔をしてしばらく待つよう私にいい、部屋の奥に消えた。私の横でボランティアの女性が「どうしたの?」と聞いてくる。私は同じ話をした。その女性は深く同情してくれ、なんとかなるといいのだけれど・・そう話してくれた。しばらくすると、チケットセンターの責任者と思わしき人が出てきてこう告げた。

「チケットは再発行できない。」

 私は目の前が真っ暗になった。ここまでの疲れが一気に押し寄せてきた。へたり込もうにもへたり込む気持ちすらなかった。カウンターによりかかり天井を仰いだ。また涙が出てきた。こんなに人前で泣くのは最近では記憶にない。
 チケットセンターは人の波があり、人が押し寄せているときと引いているときの差が激しい。混んでいるときは全職員が総出で対応するが、引いてしまうと手持ち無沙汰になる。その波を私は隅っこで眺めていた。帰ろうにも帰る気力も体力もなかった。
 20分ほど居たのだろうか、先の女性ボランティアが私に駆け寄ってくれる。「気落ちしないで。私がもう一度掛け合ってくるから。そこにいて」彼女は部屋の奥に行った。しばらくするとその女性が駆け足で戻ってきた。「もう一度盗難証明書を見せてちょうだい!!」
 
 盗難証明書を見せると彼女は大声で言った。

「あなたのチケットが見つかったのよ!!」

 私は信じられなかった。日本ならともかくドイツでそういう事が起こりえるのだろうか。ワールドカップのチケットは金券と同じだ。そのチケットを定価の何倍もの価格で手に入れたい人はいくらでもいる。盗んだのであれば、あるいは落としたのであればどうして何故売らなかったのだろう?私にはわからなかった。しかし絶望しか見えなかった私の前に一気に光が差し込んだ。良かった。良かった。私はそのボランティア女性と手を取り合って喜んだ。まだ大学生のようなあどけない彼女の親切さにひたすら救われた。周りの人も喜んでくれる。ブラジル人夫婦とおぼしき人も一緒に喜んでくれた。チケットはその場で再発行が行われた。そのチケットを持って彼女はセキュリティゲートまで一緒に来てくれた。すべてがありがたかった。ドルトムントの警察官にも、届けてくれた人にも、そしてボランティアの彼女にもただ救われた一日だった。私は急いでスタジアムに駆けつけた。時刻は午後8時30分。試合開始30分前だった。私がスタジアムに入ったその時にスターティングメンバーが発表され始めた。
(続く)
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