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第1節 アレマ・マラン 対 川崎フロンターレ
(マラン:インドネシア)
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第3日:決戦の日
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午前4時。コーランの大音響で目が覚める。日本でやれば間違いなく裁判沙汰になると思うが、この国の人たちはなんとも思わないのだろうか。東南アジアで生活するなら他人に対して寛容でなければいけない、とシンガポールに駐在経験のある知人が言っていたような気がする。であればそれは誠に結構な話であるが、だったらテロや内戦なんか起こすんじゃないよ、と言いたい気持ちもある。
このホテル、シャワーやトイレは今ひとつだが布団とベッドは大変良いのでいつまでも寝ていられる。コーランが終わったのを確認して二度寝して、目が覚めると太陽はすっかり昇っていた。部屋はバンガロータイプで、扉を開けると目の前にナシゴレンがおいてあった。朝からチャーハンというのも何だが、これがインドネシアの主食である。タイ米は炊くとまずいが炒めるとうまい。油の吸い付きがジャポニカ米より良いのだろう。
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今日はいよいよ試合である。試合開始は午後3時半でまだ時間があるが、スタジアムに行ってこようと思う。ホテルの前に止まっているベチャ(三輪自転車タクシー)に乗ってスタジアムを目指す。試合会場であるガジャヤナスタディオンは町の中心部にあり、ホテルからもほど近い。出国前、グーグルマップの衛星写真を見たときはあまりのボロさに大丈夫かと思ったが、案外普通のスタジアムである。周りでは店が出店されていてマフラーやグッズを売っている。
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スタジアム前の広場ではあちこちで少年サッカーをしている。みんな私を見る。「カワサーキ」「カワサーキ」とはやし立てる。握手を求める人も多い。これは本物のサッカーの光景だ。ヨーロッパでさんざん経験したサッカーの光景がここにある。この国の試合レベルがどうだか知らないが、スタジアム前をサッカー一色にする空気は日本のJリーグよりずっと上である。
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私はサッカー場を後にして町中を散歩する。マランは町の中心部に川が流れていて、その川の両側に家がへばりつくように建っている。端の中央から川下をのぞくと男が素っ裸で沐浴をしている。川沿いの家からは生活排水が垂れ流し状態でどうみてもドブ川にしか見えないのだが、大丈夫なのだろうか。少し下に降りると小さな女児がフリマン全開で放尿している。そのすぐ脇で男達が沐浴をしている。なんでもアリなすごい光景にショックを覚える。
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さらに町を散歩する。大体わかったのは、(おそらくインドネシア全体がそうなのだろうが)裕福とそうでない人たちの格差があまりにも極端すぎること。路上でお金を恵んでもらう乞食があちこちにいる一方、裕福な人たちは広々とした庭園やプールのある大きな家に住んでいること、そういう極端な格差社会の中で人々が暮らしていると言うことは理解できた。それがいいことか悪いことかはわからない。一億総中流の日本人の方がおかしいのかもしれない。あと5年もすれば日本でも普通の光景となり、私だって相模川で沐浴するようになるのかもしれない。多摩川の川縁にブルーシートを貼って生活するようになるかもしれない。今の自分を基準にして目の前の光景をおかしいと思うのは間違いだろう。
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マランの町を一回りして、昨日、夕飯を食べたTUGホテルに行く。試合開始は3時半であるが、川崎フロンターレがサポーター達にこのホテルに午後2時に集まってみんなで行こうと企画を立てた。私もその企画に乗ろうかと思う。完全アウェイなので、日本人同士で連帯(古い)を組むのは良いことだ。
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とりあえず昼飯を食べる。ホテルの従業員は昨日の私を覚えていて、また愛想良く注文に応じてくれる。昨日と違うのはACLに絡む人たちが結構いること。カメラマンやレポーター達が何人かいる。私が食事をしていると、彼らの方から声をかけてきた。背の高い白人で、わかりやすい英語を話すので現地人ではないなとは理解していたが、もらった名刺を見るとシンガポールのスターチャネルの取材班だった。今日の試合は衛星放送で各国で流れるはずである。
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日本人の団体が集まってくる。引率の方が私に声をかける西鉄旅行のツアコンで、一緒に行きましょうと声をかけてくれる。私は彼らのバスに同乗させてもらうことになった。
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マランに来た川崎サポーターは2団体あった。一つは西鉄旅行のオフィシャルツァー、もう一つは川崎フロンターレの中心応援団、川崎華族の仕立てたプライベートツァー。そしてわたしのような個人旅行者。全部で40人くらいだろうか。このメンバーで応援する。
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午後2時。用意されたバスに乗り込む。バスは2台。なんとパトカーが先導する。スタジアムまでの約1キロ、沿道の人たちは一斉に私たちのバスを見る。みんな手を振る。スタジアムへ向かう道路はアレマ・マランのサポーターであふれていて、それがそろってこちらを見るので少し恥ずかしい。普段選手バスの見送りをしている自分とは全く立場が逆だ。
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ほどなくしてスタジアムに到着。出迎えはヒートアップしてみんな私たちに着いてくる。それを警官隊が追い払う。スタジアム一帯は警察と軍隊が仕切っていて、かなり異様な雰囲気である。放水車や装甲車まで用意しているのを見ると少したじろいてしまう。ヨーロッパに行けば警察も軍隊も珍しくはないが、こののんびりした国に軍隊は違和感がある。
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ツァーの人たちはあらかじめチケットが渡されているのでそのまま入場する。私は持っていないので買わねばならない。幸い当日券は販売されていてVIP席が7500ルピア(約1000円)。安いのか安くないのかわからないが、これを買って入場する。入場箇所は当然アウェイ隔離席である。普段はバックスタンドでまったっり観戦しているが、今日は戦わなければならない。ワールドカップもそうだけれど、海外で公式戦を戦うのであればサポーターだって日本代表なのである。意気揚々と入場する。しかし目に飛び込んできたのはあまりにも異様な光景だった。
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(続く) |
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