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第1節 アレマ・マラン 対 川崎フロンターレ


(マラン:インドネシア)

第3日:アレマ・マラン対川崎フロンターレ

ACL参戦記
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第1節 アレマ・マラン-川崎フロンターレ
第1日:成田-スラバヤ
第2日:マランへ(その1)
第2日:マランへ(その2)
第3日:決戦の日
第3日:アレママラン対川崎フロンターレ
第4日:クディリへ
第4日:ブラヴィジャヤスタディオン
最終日:さようならインドネシア

第2節 川崎フロンターレ-バンコク・ユニバーシティ

第3節 全南ドラゴンズ-川崎フロンターレ

第4節 川崎フロンターレ-全南ドラゴンズ

第5節 川崎フロンターレ-アレマ・マラン

第6節 バンコク・ユニバーシティ-川崎フロンターレ

準々決勝 セパハン-川崎フロンターレ

準々決勝 川崎フロンターレ-セパハン

ACL総括

 スタジアムは人でぎっしりと埋まっていた。アウェイ隔離席だけが空きがあり、そこに私たちが入る。隔離席の両隣は金網で仕切っていて、そのしきりの両端に警察が立っている。ホームのサポーターが金網越しに私たちに向かって怒鳴っている。何を言っているのか皆目わからないが、挑発しているのは確かだ。


 それにしても群衆が凄い。満員だからだけではない。満席と言うだけならば日本のスタジアムでも珍しくない。しかし日本のスタジアムで言う満員とは座席が全部埋まっていることであり、それ以上入場させることは消防法が許さない。この日のガジャヤナスタディオンは立錐の余地がないほどサポーターでふくれあがっていて、それが一斉に私たちを見つめている。いままでさんざんサッカーを見たけれどアウェイでここまで敵意を感じたことはなかった。


 試合開始時刻が近づく。試合前のセレモニーが始まる。最初にDJが日本語で「カワサキのミナサンコンニチハ」と話す。するとスタジアム中から拍手が沸く。スタジアムからは「アリガトーー」の声。何がありがとうなのかよくわからないが、一生懸命歓迎してくれているのはよくわかる。川崎サポーターも一斉に「テリマカシ!!テリマカシ!(インドネシア語で有り難うの意)」と返す。スタジアムからもっとに大きな拍手がわく。エール交換なんてJリーグでは死に絶えてしまっているけれど、悪い気はしない。




 スタメンが発表され、選手入場。アレマ・サポーターは全員立ち上がり、マフラーを掲げる。そしてチャントが鳴り響く。ゴール裏もメインスタンドもバックスタンドもみんなで声を合わせて歌う。私はインドネシアのサポが行う応援なんてチアホーンをならす位だろうと思っていたが、それは大きな誤りだった。Jリーグのクラブチームではチャントを歌うのは主にゴール裏だけだ。サポーターの意識の違いで言えばJリーグはインドネシアに完全に負けている。


 試合が始まる。キックオフを取った川崎が一気に攻め上げあっさりと先制点を奪う。静まりかえるスタジアム。楽勝な雰囲気が漂い始めたが、すぐにそれが誤りであることに気づかされる。


 マランの選手は速かった。フォワードの黒人選手ふたりに川崎のディフェンスは全くついていけない。深くえぐられセンタリングを出される。川崎サポは悲鳴を上げる。同点に追いつかれるのは時間の問題で、前半14分、同点にされた。不幸な事故でも何でもなく、力負けした失点だった。




 みんないらだつ。当たり前だ。勝つのは当然、どのくらい点差をつけられるか、興味はそちらの方にあったのだ。それが完全に押されている。伊藤が振り切られると川崎サポから怒声が上がる。私は祈った。せめてとにかく勝てばよい。勝ちは望めなくてもせめて引き分けにしてくれ。負けようものなら日本には帰れない。

 
 時間は過ぎていく。もう少ししのげばハーフタイムになる。そこでたて直せばよい。その願いがきいたのか、前半終了少し前から川崎がボールを持てるようになってきた。そこでホイッスル。悪夢のような前半が終わった。

 ハーフタイム中みんなで話す。やはり舐めていた。アジアは甘くない。とにかく勝つことを目標に応援しよう。みんなで密集しよう。選手の後押しをどこまでできるか、鍵はそこにあった。


 注目の後半が始まる。エンドを逆にした川崎。その瞬間、奇跡は起こった。

 川崎から見て強烈な追い風が吹いてきた。スタジアム外の樹木が揺れる。コーナーキックのボールですら動いてしまう。アレマのキーパーはボールをまっすぐに飛ばせずラインアウトになる。逆に川崎はロングシュートが面白いように枠に飛んでいく。形成が完全に逆転した。
 
 風の影響は大きかったが、形成が逆転したのはそれだけではなかったと思う。後半、アレマの選手は足が止まっていた。前半ダッシュをかけ過ぎたのだろう。後半に限って言うと試合は完全にフロンターレのペースで、決勝点をあげるのは見えていた。マギヌン、中村のゴールはこの状態で生まれた。

 試合が一方的になるとスタジアムから人が引いていく。まだ試合は続いているのだがどんどん観衆はいなくなっていった。プロ選手にとってこういうのは辛い。惨敗してブーイングを食らうより辛いだろう。もっとも選手もモチベーションが切れていて反撃する力は残っていなかった。

 3-1で試合終了。勝った。みんなで手を取り合って喜ぶ。試合終了後の、選手が挨拶に来て、最後に中村憲剛が拡声器で感謝の言葉を述べる。みんなうれしかった。日本代表のプライドは守れたと思う。インドネシア相手なら5-0とか6-0でなければなんて声が聞こえるかもしれないが、そこまで差をつける程の差はない。ただ、モチベーションが切れやすいというのはあり、前半の早いうちで勝負をつければ一方的なスコアは出るのかもしれない。

 
 試合終了後、マランのサポーターが金網越しにマフラーを交換しようと叫ぶ。みんな銘々に交換する。私たちはマランサポーターが全員出るまで隔離席に軟禁される。でも勝ったので文句はない。みんな引き上げた頃、電光掲示板に英語のメッセージが流れた。
"We dont't lose again " "See you later"


 警察と軍隊がピッチ中央に集まり整列・点呼を取り始めた。指揮官とおぼしき人がこちらを見る。私たちは拍手をして答える。すると整列していた警官・軍人達が思い思いに手を振り始めた。最後まで緊張感を伴っていた人たちが唯一見せた笑顔だった。

 ラグビーで言うノーサイドといのはこういうことを言うのかもしれない。人が引いたのでみんなで一緒に外に出る。個人行動ができる雰囲気ではなかった。
 アレマのサポーター達はまだ帰ってはいなかった。観客席から通路に出た瞬間、みんな一斉に並び、私たちに握手を求めた。「アリガトー」「アリガトー」。殆どが子供達である。スタジアム通路からバスの所まで何十にも人垣ができて私たちに手を振る。それはバスに乗り込むまで続いた。
 全員がバスに乗ると出発する。パトカーが先導する。みんな一斉に手を振る。誰も彼も表情が生きているあんなに屈託のない笑顔を見たのは最近では記憶にない。
 ツァーの人たちはスラバヤまで行く。バスは私の泊まっているホテルに横付けし、私だけが降りた。ツアコンに礼を言って別れる。いつも一人で観戦しているけれど、また機会があれば一緒に戦いたい、そう思わせる試合だった。
 ホテルのカウンターでは従業員達が握手を求めてきた。結果はもう知っているらしい。。別の従業員が言う「カワサキノバイク、サイコウネ」。まあいい。川崎重工が川崎市にあると思いこんでいる日本人はいくらでもいる。インドネシア人を攻めることはできない。
 
 お腹がすいたのでTUGホテルに行き祝宴を上げる。いろいろあったがインドネシアに来た甲斐があった。明日はクディリに行く予定である。
(続く)
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