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準々決勝第一節 セパハン 対 川崎フロンターレ


(イスファハン:フーラッド・シャースタジアム)

3日目:試合開始前までのこと(後編)

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第1節 アレマ・マラン-川崎フロンターレ

第2節 川崎フロンターレ-バンコク・ユニバーシティ

第3節 全南ドラゴンズ-川崎フロンターレ

第4節 川崎フロンターレ-全南ドラゴンズ

第5節 川崎フロンターレ-アレマ・マラン

第6節 バンコク・ユニバーシティ-川崎フロンターレ

準々決勝 セパハン-川崎フロンターレ
はじめに:イランという国
初日:出発まで
2日目:イスファハンへ
3日目:試合開始前までのこと(前編)
3日目:試合開始前までのこと(後編)
3日目:セパハン-川崎フロンターレ
4日目:イラン・プレミアリーグ
5日目:ペルセポリス
6日目、最後の夜
7日目:さようならイラン

準々決勝 川崎フロンターレ-セパハン

ACL総括
(→前回からの続き)

 警官は「IDカードを見せろ」と威圧的な口調で言う。「私はツーリストだ」と言っても通じない。発音の問題化と思って手帳に書いたりもするが、それでも通じない。パスポートはホテルに預けているので今はない。疑いをかけられるとかなりまずい。基本的に英語が、というより英単語が理解できない人たちなのでやむを得ないのだろうが、単にサッカーを見に来ただけなのに何でこんなアホな対応をされなければならないのだろうと思う。


 周りの警官達はニヤニヤしながら「ジャーポン、ジャーポン」とからかう。だんだん腹が立ってくる。どうみても二十歳をこえたばかりのような若造が、年上に対して露骨な口の利き方をする態度にむかついてくる。その軍靴に蹴りの一つでも入れたくなったが、自動小銃の引き金を引かれると頭が吹き飛ぶのでそれはやめとく。「Where is Ticket Box?」と英語で行った後、間髪入れずに「チケット売り場はどこだ!」と怒鳴りつけた。旅行の鉄則というわけではないが、喧嘩をするなら自国語でやったほうが効果的ではある。


 埒があかなくなったのは警官隊も同じなようで、携帯電話でいろいろとやりとりをしている。そのうち、隊長とおぼしき人が、こっちへ来い!と私を案内した。歩哨の立つゲートを過ぎるとスタジアムの正面玄関に出た。玄関をくぐるとオフィシャル関係者がせわしなく動いている。私はスタッフに引き渡された。スタッフは実に愛想良く、「こちらへ」とスタンドに案内する。「Welcome to Esfahan」という横断幕くが私を迎える。案内された先はメインスタンドアウェイ側、つまり川崎フロンターレサポーターの隔離席だった。結果としてまあ良かったと言えるけれど、チケットを買わずに入場したことになる。


 今日のスタジアム、フーラッドシャー・スタジアムはメインスタンド中央以外は全席仮設という、非常に簡素で潔い作りになっている。もちろんサッカー専用。ピッチに平行してストレートの観客席が設置されている。アウェイ側ゴール浦は芝生席、というか席の設定はされていないようだ。この芝生席は無料で観戦できそうだが良いのだろうか。すぐ近くに禿げ山が連なっている。いかにもイランと言った感じがする。標高1600メートルのこのスタジアムは空気がうまい。イランはスモッグが酷いと出発前に言われたが、このイスファハンに限ってはそのようなことはなかった。


 いずれにしてもすばらしい。こういう環境でJ2やJFLの試合を観戦したい。Jリーグ規定の1万5千人のスタジアムなんて必要ないと思う。天然芝のピッチ1面にメイン中央だけ観客席を作って四方は仮設席で充分だと思う。土地が確保できれば建設費など10億円もかからないだろうに。全都道府県どころか全市町村に最低一つ、このクラスのスタジアムを作ってリーグ戦をやればサッカーもラグビーもずっと楽しく観戦できるだろう。手持ちぶさたな日産スタジアム一つつくるよりも横浜市の全区にこの競技場を作ってくれた方がずっと市民のためになる。あんな巨大な競技場は必要ない。



 試合開始3時間前であるが、アウェイサポーター席には誰もいなかった。かなり広く取ってあるスペースに一人ポツンと座る。対面のバックスタンド側はセパハンサポーターが結構来ている。500人くらいいるのだろうか。人の事を言える義理は全くないが、仕事は大丈夫なのかと思う。


 ボケーッとピッチを見ていると、反対側のスタンドでサポーター集団が私に手を振っているのが見えた。私も振り返してみる。ウォーっと大きな声がして、今度はスタンド全体がマフラーや旗を振ってくる。私もマフラーを振り回してみる。スタンドはますます盛り上がる。面白い面白い。貴賓席を挟んだメインスタンドホーム側の観客も私に手を振ってくる。私一人がスタジアムの観客全員を相手にしているようで、退屈しない。思わず中指をたててみたい衝動に駆られるが、さすがにそれはやめておいた。


 そうこうしているうちに川崎のコアサポーター一団が到着した。私も横断幕作りを手伝う。外国での試合だからいろいろと勝手が違うようで、警備員と揉めたり相談したりしながら張る。なんとか格好がついてきた。
 日がだんだんと暮れてきた。またサポーター集団が入ってくる。コアサポーターとは別にクラブが公式に募集したツアーで来た人たちだ。みんな男性なのが気になるが、人も増えてきた。総勢50人くらいだろうか。個人できた人も入場してくる。海外4試合目ともなると以前の遠征で見覚えがある人も出てくる。少し話が弾む。


 ツァーで来た人たちの話では、イラン警察が女性の入場を止めているとのことだった。イランでは女性のサッカー観戦を法律で禁止している。世界の法律の中でもかなり馬鹿馬鹿しい条文だと思うが政教一致の国なので仕方がない。ただ、この試合に限っては事前に川崎、セパハン、AFCの3者間で女性入場可の合意は取れていた。だから川崎のツァー参加者は女性も参加できたのだが、この特例がイスファハン警察に通知されていなかった。警察としては法律で禁止されているものを認めるわけにはいかない。当たり前の話だが、何故通知されなかったのかという疑問がある。まあそれがイランだからということなのだろう。話によると日本大使館がイラン政府に働きかけているようなので、外交ルートに期待するしかない。
 

 試合開始30分前。女性サポーターの入場問題が解決され、彼女たちも入場してきた。良かった良かった。みんなで喜ぶ。状況が状況なので彼女たちを集団の真ん中において隠すようにする。普段と勝手が違うのであまり手際がよろしくない。

 
 日が暮れてきた。今日は9月19日。秋分の日に近い。高原都市イスファハンでは日が暮れると気温がぐっと低くなってくる。セパハンサポーターがぞくぞくと入場してくる。バックスタンドはぎっしりと満員。ホームゴール裏も満員となった。急遽席が設定されていないアウェイゴール裏が解放される。警備があわただしく動く。スタンドに照明がともり選手がウォーミングアップを始めた。川崎の選手達に容赦ないブーイングが飛ぶ。私たちも臨戦態勢になってくる。


 選手紹介が始まった。90分後、決着が付く。なんとしても勝たせたいと思う。私をドバイに連れて行ってほしい。そう願いつつ試合が始まるのを待った。

 


(続く)

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