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シリアリーグ開幕戦



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 10月10日。出発して7日目。朝食を取った後、ホテルを出てバスターミナルに向かう。疲れているせいか、かなり眠い。バスセンター内の旅行会社でアレッポ行きのチケットを買う。まだ眠気は取れず、乗り場の前でボケーっと突っ立っていると、いきなり上空をミグ23の編隊が爆音をたなびかせて去っていった。あまりのやかましさに目が覚めた。「市街地の上空を超音速で飛ぶんじゃない!!」と怒鳴りたくなくなるが、準戦時下の国なので仕方がないのだろう。


 今日は試合を観る。シリア・リーグの開幕戦で、シリア全土で1部リーグ8試合が行われる。私はどのカードを見るか悩んだが、シリア北部の町、アレッポにあるアル・イテハドの試合を観戦することに決めた。アル・イテハドと言うと、数年前にクラブ・ワールドカップに出場したアル・イテハドを思い浮かべるが、そこはサウジアラビアのクラブでこことは違うチームである。アラビア語で「イテハド」は「ユナイテッド」を指す。「アル」はアラビア語の定冠詞で、英語風に言うと「ザ・ユナイテッド」となる。中東は総合スポーツクラブの体裁を取っているクラブが多いので、「アル・イテハド」があちこちにあってもおかしくはない。


 このシリアのアル・イテハドも実は08年度アジア・チャンピオンズリーグに出場している。グループリーグにはサウジアラビアのアル・イテハドも入っていて、さながらイテハドダービーとなったのだが、両チームともグループリーグを勝ち抜けなかった。


 ハマからアレッポまでは2時間。すぐに着いた。時刻は11時で時間があるので市内観光をする。アレッポもまた古い歴史のある都市で、旧市街地部分は紀元前1800年前にできている。もちろん世界遺産。この中東遠征に来てから4つめの世界遺産であるが、こういう市街地はダマスカスでさんざん見たので旧市街見学は省略し、アレッポ城を見ることにする。





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初日
中東へ

2日目
UAEの路線バス
ヨルダン入国

3日目
シリア入国
ダマスカスのスタジアム

4日目
レバノン入国
拘束される
AFCカップ

5日目
バールベック遺跡

6日目
ガンバはフェアだった
遙かなるバグダッド

7日目
シリアリーグ開幕戦
また拘束される

8日目
ヨルダンリーグ

9、10日目~最終日
さようなら中東
 アレッポ城は市から少し外れた高台の上にあって入口からでも市街地を見下ろせる。入場料を払って上層から見ると、真っ白い家々が眼下を埋めている。色彩が統一されている町というのは美しい。日本では場違いな色彩の家が良く裁判沙汰になるけれど、こういう景色を見ると住民の主張もよくわかる。




 城の前ではカフェが軒を連ねている。ここで昼食を取ってスタジアムに向かう。アルイテハドのスタジアムについては城の観光案内所のお兄さんにアラビア語でスタジアム名を書いて貰った。これをタクシーの運転手に見せれば連れて行ってくれるはずである。観光地なのでタクシーを見つけることはたやすかった。


 スタジアムまでの距離はそれほどでもなかったが、到着する1キロくらい前から観戦客が増えだしてきた。その数は競技場に近づくにつれて加速度的に増し、とうとう数百メートル手前で動かなくなった。サポーターの数が凄い。今日はシリアリーグ開幕戦というのもあるだろうが、チアホーンや放吟でやりたいほうだいやっている。出店も一杯出ていて非公認のマフラーや帽子を売っている。これはもう祭りだと思う。日本のJリーグではスタジアムが埋まることは多いけれど、スタジアム前では概して静かなものだ。それは悪いことではないが、どんちゃか騒げる環境はうらやましい。




 チケット窓口なんてものは存在せず、スタジアムの入口で突っ立っている兄さんから直接買う。大人1枚100SP(約220円)。兄さんの隣には別の兄さんがいて、私が買ったチケットを取り上げて破り捨ててしまう。そして中に入れと言う。チケットを売る人、破る人、二人ペアで仕事しているらしい。しかし、こういう国に来て毎度不思議に思うのだけれど、売り上げ管理はどうやっているのかと思う。発券管理なんてやっているようには思えないのだが。どんぶり勘定もいいところではないか。

 試合開始まで1時間あるが、スタジアムは既に満席だった。アル・イテハドのホーム、アル・ハマダニアスタジアムは特に特徴もない陸上競技場で、日本ならば1万人収容といったところだが、ここは中東で、実際は詰め込むだけ詰め込み2万人入ったようだ。
 
 私は座席を確保したが、客の多くはスタンド最上部のフェンスに登って腰を下ろす。まるで雀のようにも見える。




 試合開始まで特にイベントがあるわけではなく、たんたんと時間が過ぎる。そうしているうちに吹奏楽団が出てきて選手が入場してきた。一斉に歓声が上がる。選手が横一列に並ぶと歓声は止み、音楽が鳴った。選手は直立不動で聞いているのでおそらくは国歌であろう。みんな声一つたてない。独裁国家の国歌だからぞんざいに扱おうものならば不敬罪が適用されるのかもしれない。


 試合が始まる。システムは両チームとも4バックであるが、ディフェンスが上がらない。4バックはサイドバックのオーバーラップが特徴なのだけれど、これがないとゾーンプレスで試合を進めることになる。あまりラインを押し上げることもなく中盤でボールが動くだけのサッカーなんてつまらない。シリア・リーグに面白さを求めるのが無理なのかもしれないが、これでよくACLに出てこられたと思う。


 今日の試合だけを観てリーグ全体を評価することはできないけれど、このチームがシリア・リーグの優勝候補であるならば、そのレベルはJ2並だと思う。もっともJ1だってクソとしか言えないような試合は数多くあるから何とも言えないが。今日は開幕戦だから調整がすんでいないのかもしれない。




 正直言って、このなかからJリーグでやっていけそうな選手はいなかったが、それを差し引いても試合は楽しめた。それはスタジアムが満員だったと言うのが大きいだろう。やっぱりサッカーはスタンドを埋めて初めて経営を語れるのだと思う。馬鹿高い入場料を取るJ2の某チームはその辺のところがわかっているのだろうか。

 試合はディフェンシブに進み、後半アル・イテハドが混戦から1点を決めて試合終了。ある意味予定調和であった。私はロスタイムに入った瞬間、席を立ってスタジアムを後にした。試合後の大混雑を避けたかった。満員の味スタやフクアリを経験した人ならわかると思うが、スタジアム外の導線が不十分だと通路は大混雑を起す。これにまきこまれたくはなかった。


 スタジアムの外で流しのタクシーを捕まえ、バスターミナルに行く。今日は今朝泊ったハマ市まで戻って、連泊する。夜遅くならないうちにつきたかった。日が暮れてきた。都市の陰に日が落ちていく。
バスターミナルの前に着く。バスターミナルの前の広場にミグ21戦闘機が飾ってあった。タクシーの窓を開け、この戦闘機をパシャリと写した。すると私服のおっさんが私に近づいてきた。強い口調で降りろ!とどなる。めんどうなことになった。


(続く→) 

 
 
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