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また拘束される



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 おっさんは私の乗ったタクシーに近づいてきて、私に向かってギャーギャーわめく。私は状況をなんとなくは理解したけれど、素知らぬ顔で無視を決め込む。おっさんは私の席のドアを叩き、外へ出ろ、とゼスチャーをする。面倒くさいが仕方がないので外に出た。おっさんは相変わらずギャーギャーいっているが、英語が話せないので意思疎通はできない。ラチがあかなくなったのか、おっさんは黙り込んでしまった。いつまでたっても私がタクシーに戻らないので運転手が仲裁に入る。彼はおっさんと一言二言話した後、私に「マネー」と言った。私は200SP(約440円)を渡した。彼は「モア」と繰り返すので500SP札を追加で渡す。運転手は計700SPをおっさんに渡すことでこの場を解決させた。要はワイロを送ったわけだ。


 車に戻ってひとしきり休む。運転手は私に「彼はシークレットポリスだ」と言った。シークレットポリス、つまり秘密警察なわけだが、シリアではきわめて一般的にいる。独裁国家では必須の職業と言っても良い。仕事の内容はそのものずばり治安維持で、政府の悪口を言っている奴がいないか監視することである。通常は仕事を持っているが、バス停や空港など、外国人のいそうな所には集中的に配備されているそうだ。


 私としては、そんな退役した旧式戦闘機の置物を撮ったところでナンボのものか、とも思うのだが、この国は日本と政治体系が異なるのでそういう常識は通用しない。イスラエルと準戦時状態にあるので怪しい外国人はまずチェックというのは仕方がないのだろう。逆に言えば、このトラブルを1500円程度で済ませることができたのはラッキーだったかもしれない。


 バスターミナルに戻り、ハマ市行きのチケットを買う。バスはすぐに出ると言うので急いで、バス乗り場に行き、止まっているバスに乗り込もうとした瞬間、係員に呼び止められた。彼は「パスポートをよこせ」と私に言った。


 いままでこの国で結構バスやタクシーに乗ったけれど、パスポートを預かられたことはなかった。バスのチケットを買うときやホテルに泊るときはパスポートを見せるが、それ以外はノーチェックである。私は先の秘密警察のことが頭に浮かんだ。とりあえずバスに乗り込んで待つことにする。


 いつまでたってもバスは発車しなかった。もっともパスポートが返って来ないので発車されても困るのだが、私は待つばかりの自分にイライラし始めてきた。他の乗客は良くあることなのか、動じない。バス案内の担当者は乗客全員に水とあめ玉の配布をはじめた。ほとんど航空機並みのサービスでそれは嬉しいのだが、裏で何をやっているのかと思う。


 20分ほどたっただろうか。運転手が戻ってきた。私にパスポートを返すとすぐに発車した。やはり私が原因だったらしい。日は暮れて、あたりは止みに包まれた。バスは遅れを取り戻すべく猛スピードで走る。景色が流れる。私は安堵感と疲労感で眠ってしまった。


 バスは高速道路をひた走る。気がつくとハマ市到着を告げるアナウンスがあった。時計を見ると定刻である。いったいどのくらいのスピードで突っ走ったのだろうかと思う。


 ハマのホテルに戻ってしばらく休み、食事に出かけた。私はまだ夕食を撮っていない。安堵感がでたのか急に腹が減ってきた。私は水車前のレストランに出かけた。ハマの名物は水車である。目の前に大きな水車が回っている。その前のテラスでステーキを頼んだ。今日はシリア最後の夜である。ライトアップされた水車を横目に牛肉を食べた。アルコールはないのでオレンジジュースで我慢する。今日はいろいろとあった。明日はヨルダンに再入国し、ヨルダンリーグを観戦する予定である。


(翌日に続く→)
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また拘束される

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