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ヨルダンリーグ



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 午前6時起床。身支度をしてホテルをチェックアウトする。まだ暗いハマ市内を歩き、タクシーを見つけて乗り込み、バスターミナルに行く。ハマからダマスカスに行くバスは7時が始発なのでこれに乗りたかった。窓口でダマスカスまでのチケットを買う。100SP(220円)。ダマスカスまでは200キロくらいあるのに200円で行けるとはシリアの交通機関は非常に安い。私がバスに乗り込む頃、やっと夜が明け始めた。シリアの朝は遅い。キオスクで買ったパンとコーヒーで朝食を取ると眠気が襲ってきた。

 こんなに朝早くダマスカスまで戻るのは、今日はこのままヨルダンに入国し、ヨルダンリーグを見るためである。ダマスカスまで200キロ、ダマスカスからアンマンまでも200キロで計400キロ。所用6時間位だが途中で国境越えがあるし、ホテルも探したいので早くアンマンにつきたい。そうなると必然的に朝早いバスに乗らざるをえなかった。


 ボケーッと窓の外を眺めているうちにダマスカスに着く。アンマン行きのバスターミナルは町の反対側なので、タクシーで移動し、そこからアンマン行きのセルビスに乗車する。中東に入国して1週間が経過したので勝手がわかってきた。セルビスは高速道路をぶっとばして、14時、アンマンのバスターミナルについた。


 試合は18時30分からなのでまだ時間がある。ホテルを探してチェックインして少し休む。その後、ホテルのフロントに今日の試合会場を聞いて出発した。


 今日の試合は、アル・バカ対アル・ジャジーラ。場所はアンマンインターナショナルスタジアム。つまり国立競技場である。グーグルマップで見るとスタジアムがいくつもあるのでよくわからなかったが、まあ行けばわかるだろう。幸い、タクシーの運転手にはスタジアムの場所はちゃんと伝わった。タクシーはアンマンの町を北上し、10分程度で到着した。敷地の入口には銃を持った警備員が常駐している。この一週間、常に警察やら軍隊やらを意識してきた旅行をしてきた。もう慣れたけど、そろそろ日本に帰りたいなと思う。


 スタジアムにはサポーター達が集まっていた。もっともレプリカを着るわけでもなく応援の練習をしているわけでもない。スタジアムの前に思い思いに座り込んでタバコを吸ったり物思いにふけったりしている。日本のコンビニでたむろしている高校生がいるけれど、あれと同じである。

 彼らにチケット売り場を聞くと、黙って周回路を指さす。それに沿って歩くとチケットブースがあった。大人1枚2YD(約340円)。安いと言えば安いし高いと言えば高いのかもしれない。バックスタンド中央が入口で、そこで警察のボディチェックを受ける。日本の国立霞ヶ丘競技場における荷物検査のような、手荷物を開けて上から眺めておしまい、というような生やさしいものではない。金属探知機を使い、荷物はすべて開ける。ヨルダンは中東の中では治安がよいとはいえ、東にイラク、西にイスラエルと国境を接しているので慎重になっているのであろう。というよりはこれが世界一般の荷物検査というものであって、日本の荷物検査が甘すぎるだけかもしれない。


 スタンドに上がると客は殆どいなかった。その代わり非常に多くの警官隊がいて、ものものしい雰囲気だった。警官と言っても普通のポリス服ならまだマシだが迷彩服に防弾防刃チョッキ、自動小銃という格好なので相当緊張感を感じる。私は警官の一人にゲームを撮ってもかまわないか?スタンドを撮ってもかまわないか?と聞いた。もう拘束されたくはないので慎重に聞く。警官はOKを出す。私はバックスタンド端に行って写真を撮らせてくれと頼み込むと、件の警官も同行することになった。


バックスタンド端は別の警官が警備をしている。彼は眉間を険しくして、何しに来たんだ、戻れ!と怒鳴る。あわてて先ほどの警官が仲裁に入った。周りの警官も集まってくる。うーーーむ。


 隊長クラスの人が私に警告をする。「ミスター・・・・。スタンドの写真を撮るのはかまわない。試合を撮ってもかまわない。でも私たち警官は撮らないでくれ、撮ってしまうと拘束しなければならないんだ」・・・まあ私だって無用な拘束はさけたい。というか、レバノン・シリア・ヨルダンとすべてにおいて捕まるとバカを通り越してしまう。


 試合開始時刻が近づいてきても客は増えなかった。ポツポツ集まってくる観客は若いのと老人の両方が目立つ。日も暮れてきた。ヨルダンインターナショナルスタジアムに薄暗い照明が灯る。そうこうしているうちに選手のアップが始まった。


 今日の対戦相手、アル・バカはヨルダンの強豪チームとして知られる。「バカ」とはアンマン北部にあるパレスチナ難民のキャンプ地の地名だが、アンマンを本拠地としている。まあグーグルマップで「バカ」の航空写真を見てもスタジアムらしきものは見つからないので、ここで試合を行うのはやむを得ないだろう。数少ないアル・バカサポーターが私に問う。「オイ、お前はどっちのチームを応援するんだい?」私は答える。「バーカ!」・・おっさんは上機嫌でそうか、そうかと頷く。緊張感の中の平和な光景だった。

 そうこうしている間にスタメンが発表され、選手が入場し、試合は始まった。
試合は・・・まあ結構おおらかというか、なんというか、ヘタなりに一生懸命やっているというか、まあそういうレベルだった。このリーグがAFCカップの優勝常連国というのも信じられない。そして何よりも無人に近いスタジアムと、客がいないにも関わらず5メートルおきに配置された迷彩服の警官のコントラストが異様だった。気温とは別の意味で寒い、そんな気がした。


中東とはいえヨルダンは地中海に近く、10月ともなると結構冷える。私はこれを予想して厚着をしてきたが、Tシャツ1枚だったら風邪を引いたかもしれない。

 
 もっとも客は少ないが、サポは熱く、一所懸手を叩き、命声を出す。パンパンパパパンパパン! 「バカ!!」。乾いた声が乾いたスタジアムにこだまする。警官がにらむ中での応援は、決して歓迎されていない、シュールなものだった。


 試合は前半は0-0。後半はバカが先制点を取った。少ないサポは手を取り合って喜ぶ。私も喜ぶ。その瞬間ビジターに過ぎない私の元にサポがよってきて、一緒に応援することになった。

 試合を観ている限り、アル・バカは対戦相手のアル・ジャジーラより強いと思われる。ポゼッションをきちんととって試合を進めるやり方は、戦術的にもスマートだった。技術が全く追いついていないが、多分このまま、バカが逃げ切るだろうと思っていた。

 



しかしそうはならなかった。点を取られたアル・ジャーラは怒濤のプレスをかけてボールを奪い、一気にアル・バカのゴールを奪う。同点。気落ちするバカのサポーター。 ここでバカも負けじと攻めて、何度目かのシュートで突き放す。2-1。これで勝負あったかに見えた。しかしアル・ジャジーラも最後まであきらめず、試合終了直前に同点に追いつく。2-2で試合終了。


 バカのサポーター達はがっかりする。選手はあいさつもせずに引き上げる。白けた空気がスタジアムに漂った。食い散らかしたスナックやひまわりの種がスタンドを汚く汚す。私も引き上げた。気がつくと警官も撤退し、スタジアムはあっという間に無人になった。


 私としてはヨルダンリーグとはこういうものだ、というのがわかって、それなりに面白かったが、ヨルダン国民はこういう試合をどう思うのだろう。興行の概念のないサッカーは盛り上がらない日本ラグビーの大学対抗戦のような、あるいは早慶戦やオックスフォード対ケンブリッジのような、伝統ある戦いなら盛り上がるかもしれないが、これだと厳しい。ヨルダンがACLの出たいのならば、これをなんとかしなければならないと思う。


 私はスタジアムを出て大通りを渡る。そこは繁華街で、ピザ屋があった。ビールが飲めないのは辛いがやむを得ない。ピザ屋は若者達でにぎわっており今日、隣のスタジアムで試合があったことなど誰も気にとめていないようだった。テレビではブンデスリーガの試合を放映している。ヨルダンサッカーの現実を知って寂しい気持ちになった。


 今日はヨルダン最後の夜である。明日はUAEに戻る。いよいよ帰国である。


 
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