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6月24日 最後は軽く鉄道で締める

最終回:マインツの歓喜

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6月21日 まずは軽く鉄道から
その1:ミュングステナー橋
その2:ウッパータールの
モノレール
6月22日 決戦の日
その1:フットボール道場
その2:チケットがない!!
その3:日本-ブラジル戦
6月23日 デュッセルドルフ総領事館
デュッセルドルフ総領事館
6月24日 最後は軽く鉄道で締める
その1:ロマンチック・ライン
その2:カールスルーエのスタジアム
最終回:マインツの歓喜
 ブラジル戦が終わってから私はワールドカップの各試合にはほとんど興味がわかなかった。元々好きなのはJリーグやブンデスリーガなどのクラブチームの試合であって、代表戦にはそれほど関心がなかったからというのもあるが、サッカーに限らず、お祭りというものには一歩引いてしまうものがあると思う。正直、私はブラジル戦終了後、決勝トーナメントに進むのはオーストラリアとクロアチア、どちらなのかということさえ知らなかった。
 カールスルーエから帰りの列車に乗る。フランクフルトをすぎると列車はまた空き始めた。車内はビール瓶や新聞紙が散乱している。暇なのでそのうちのひとつを手に取る。スポーツ欄はドイツ-スエーデン戦の展望を詳細に書いていた。そうか今日はドイツ代表の試合があるのか・・。少し興味が出てきた。試合開始時刻はもうすぐである。見てみたい。私は予定を変更してマインツで降りた。
 マインツで降りたものの、パブリックビューイングをどこでやっているかわからない。マインツにはブンデスリーガ1部のマインツ05というチームがある。そのホームスタジアムにいけばおそらく開催しているのではないか?私はそう考えた。そのスタジアム、「シュタディオン・アム・ブルッフヴェーク」はマインツ駅の近くにあると、とあるサッカーサイトで読んだ覚えがある。とりあえず地図で確認すると駅から約1キロ、確かに遠くはない。
 マインツはライン川にへばりついたようにある町で、スタジアムは丘の上にある。ちょうど横浜駅から三ツ沢球技場に歩いて行く時に丘に上るような感じである。このあとマインツでブンデスリーガの試合があるのなら疲れなどものともせずに上がるのだが、今の私には少々きつい。上っている最中に時計を見る、ちょうどキックオフの時間だ。
 土曜日にしては人通りが少ない。みんなテレビを見ているからだろう。道に迷ってしまったので誰かに聞きたいが通行人がいないので聞きようがない。
 突然、周囲から大歓声が上がった。通りすぎる車が一斉にクラクションを鳴らし始める。ドイツが点を入れたのだろう。とするとこの先の展開は急に動くはずで、少し急がねばならない。
 マインツのスタジアムは坂道を登り切ったところにあった。ちょうど芝の養生中のようで、スタンドの扉が全解放されている。扉の隙間から傾斜の急なスタンドがのぞいている。ただし人気はない。私がたどり着いた所は裏手になるので、正面玄関に回る。倉庫脇に大型テレビが設置してあった、大勢の市民が見ていた。スコアを見ると前半30分を終えて2-0。ルーカス・ポドルスキが2点を入れたらしい。スェーデンという強豪相手に楽勝の展開なのでみんな気分がいい。私にもビールを振る舞ってくれる。試合はハーフタイムに入った。
 ハーフタイムを利用してスタジアムを見る。何しろすべての扉が開いているのでかんたんにスタンドに入れる。シュタディオン・アム・ブルッフヴェークは小さな町の小さなスタジアムであるが、イングランドスタイルのサッカー専用スタジアムでシンプルな美しさを見せている。1部リーグ昇格に伴って増設されたのであろうコーナーサイドの仮設スタンドがいじらしい。マインツ05という名前の通り、チームができたのは1905年。その後、ずっとマイナーリーグ暮らしを続け、ちょうど100年たった2005年、1部に昇格した。ここまでくると凄いとか感動とか、そういう陳腐な言葉ではとても表現できない。


 シュタディオン・アム・ブルッフヴェーク
 後半が始まる。展開的には楽勝で、スエーデンの怖さはない。キーになるプレーヤーがラーション一人だけではつらいだろうなと思う。しかしドイツを支えていたのはノボトニーと初めてとする。ディフェンダーで、彼らとゴールキーパー、レーマンの安定度がドイツをさせていたのではないかと思う。勝利が見えてきたからかと、テレビの前にはドンドン人が増えてくる。席は満席になった。立ち見も増えてきたのでよく見えない。
 一プレー、一プレーに声が大きくなってくる。ドイツのシュートが枠を外れればみんなで悔しがり、スエーデンのシュートが枠を外れれば安堵する。ここがフランクフルト当たりならば、ドイツ嫌いのイングランド人などがスエーデンを応援するかもしれないが、ここでは全員がドイツを応援する。雰囲気はスタジアムのゴール裏と同じになってきた。
 試合終了。2-0でドイツの勝ち。この瞬間、周囲から大きく歓声が沸いた。スタジアムの周囲からクラクションが鳴り響いた。手を取り合って喜ぶ。私は外国人なのでのけ者である。サッカーは勝たなければ意味がない。つくづくそう思う。
 私はスタジアムを出た。家という家にドイツ国旗が貼り付けてある。駅に向かう道を歩いていくと、教会の鐘が鳴り響いてきた。マインツは宗教都市である。フランク王国の拠点であると同時に大司教の居住地でもあった場所で、教会が多い。あちらこちらから鐘の音が響く。道行く人が急に増えた。みんな喜んでいる。車から身を乗り出してドイツ国旗を振り回す若者が多い。スピードはゆっくり、しかも蛇行している。正月の中央高速と同じであるが、それを許す空気がマインツにはあった。この瞬間に限って言えば、ドイツの全都市が同じようなものだたのだろう。
 駅に着くとケルン行きのRE(急行)がやってきたのでそれにのり、ボンに戻る。駅からホテルに戻ろうとすると、なにやら警官と市民がもめている。喜びの度がすぎただけなのだろう。そういう気持ちは理解できる。
私はレストランに入ってビールを飲んだ。テレビではメキシコーアルゼンチン戦を放映している。疲れているが、今日はドイツ最後の夜なので試合終了までそこで過ごした。チケットやパスポートが盗まれたり、いろいろあったが、概ね楽しく過ごせたと思う。いままでワールドカップには少し引いてみたけれど、4年後に南アフリカに行ってもいいかなと、そんな気もする。実際に行くかどうかはまだわからないけれど。
 翌朝、ボンからデュッセルドルフに向かい、そこからエールフランスででパリに行く。パリは雨だった。もうカラカラの晴天だったドイツの面影はなかった。JAL406便成田行きに乗り込むとキャビンアテンダントが日本のスポーツ新聞を乗客に配り始める。その瞬間、みんな一斉に声を上げた。一面にはオシムが日本代表監督に就任することが大きくかかれていた。
(おしまい)
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