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成田から香港まで4時間、香港で1時間待った後、ドバイまで8時間。都合13時間かけて午前5時、ドバイ着。空港から外に出ると首にネットリと熱気がまとわりつく。実は私は今回の旅行で革ジャンを着込んできた。ダマスカスの日本大使館に事前に聞いたところ、10月のシリアは寒い、とい言われたので厚着をしてきたのだ。常夏のドバイで革ジャンというのは場違い以外のなにものでもなく、私は周りからかなりの注目を浴びた。当然といえば当然だが、所詮トランジットで降りただけなので、とっととこの国を出たくなった。
しかし、そう簡単にはいかなかった。といっても殆ど自分がいけなかったのであるが。
ドバイ国際空港のスタッフにシャルージャ空港行きのバス停はどこにあるのか聞いてみた。驚いたことにドバイ空港から直接シャルージャ空港に連絡するバスはないと言う。「シャルージャ空港に行くにはタクシーを使うんだよ」とスタッフは言う。「タクシー代はいくら位?」と私が聞くと、彼は「60ディルハム(約1800円)位かね」と言う。
うーーーん・・・・。タクシーで20キロの距離を走って1800円なら安いのかもしれない。というか、この状況なら100人中100人はタクシーを使うような気がする。しかし私は微妙に面白くない気持ちがわいてきた。理由は特にないのだが、「タクシーを使ったら負け」という気持ちがしてきた。今はまだ午前6時で飛行機の出発時刻は13時30分なので時間はある。
私は「路線バスで行くとしたらどうやっていくの?」と聞いてみた。彼に曰く、「ディラ地区まであのバスで行けば、そこからシャルージャ行きのバスが出ている。その先は知らない。でも、本当にバスで行くのか?タクシーの方がいいよ。」
まあそうなのだが、人生とは何事も挑戦である。とりあえずチャレンジしてみる。するとそのやりとりを聞いた東南アジア系の兄ちゃんが、「俺がディラまで連れて行ってやるよ」と案内を買って出た。知らない人について行ってはダメ、と言うのは幼稚園児でも知っているお約束事であるが、まあ身分証も見せているし、ありがたくお受けする。ディラまでのバス代は2ディルハム(約60円)。
バスの中で彼と話す。彼はフィリピン出身のドバイ空港整備スタッフ。身分証も見せてもらう。若そうに見えたが35歳で子供二人。ドバイに来て10年になるそうだ。ドバイの話を聞く。ビルがいっぱい建って人が増えた。金持ちとそうでない人の差が激しい。あなたは日本から来たのか、金持ちだな。どこに行くのか?いつ帰るのか?日本語を教えてくれ。と。日本語を教えてくれという話はこの先、いろいろなところで言われた。外国で働くと言うことはその国の言葉を覚えるということだ。興味もあるのだろうが、外国へ「出稼ぎ」に出ている人の気持ちはほとんどの日本人には理解できないだろう。
20分ほどでディラ地区に着き、礼を言って彼と別れる。まだ7時前なのであたりは暗い。シャルージャ行きのバスは、まだ始発が出ていないようで、労働者風の人が50人位ずらっとならんで待っている。私はその最後尾に並ぶ。30分ほど待つとシャルージャ行きのバスが来る。私は一番後ろに並んでいるのでこの列だと乗れそうもない。あきらめて待っていると、驚いたことに係員が私を呼んで先に乗せてくれた。大きなバックパックを背負っているから気の毒に思ったのかもしれない。私のせいで一人あぶれてしまったが感謝して乗る。シャルージャまで5ディルハム(約150円)。
バスは高速道路をぶっ飛ばす。さすがドバイでビルが建ち並ぶ。海岸も良く整備されている。ナツメヤシが立ち並び、あまりイスラム圏に来た気がしない。宮崎海岸と言っても通じそうな感じである。反対車線のドバイ方面行きは大渋滞で、あんなところ走る気がしないが、幸い、シャルージャ方面行きは空いている。これまた30分ほど走り、シャルージャ中央バスターミナル着。
バスターミナルは結構大きい。このバスターミナルからシャルージャの各方面行きのバスが出ている。当然空港行きもある・・・はず。係員に聞いてみると、「あれ」と指さす。見るとターミナルの一番端っこの方にミニバスがポツンと止まっている。扉は開いているが誰もいない。運転手が暇そうにしている。空港行きであることを確かめて乗り込む。発車まで時間があるらしく運転手はまだ寝ている。勤務中にいいのか、と思うが気にしないことにする。クソ暑い中、クーラーも効かないバスの中で発車を待っていると意識がもうろうとしてくる。
30分ほど待っただろうか。運転手は私から5ディルハム(約150円)を徴収して発車した。客は私一人だった。バスはシャルージャの町の中をクネクネと曲がりながら走る。シャルージャの町は碁盤の目のように道路が直角に交わっていて、交差点では細い道の方が渋滞している。従って太い道を走っている限りでは渋滞に遭わないはずなのだが、このバスは交差点にさしかかると必ず曲がる。従って渋滞にはまる。曲がった先に空港があるわけではなくて、そういう路線のようだ。交差点にさしかかると右折して、また交差点にさしかかると右折して、さらに交差点にさしかかるとまた右折する。すると凄いことに元の道路に戻ってしまうのだ。渋滞の中でこんなことをやっているとさすがにイライラしてくる。
なんかこう呆然をとおりこして意識がなくなってくる。やっぱりドバイからタクシーに乗るべきだったのだろうかと考えてくる。端から見ていると当たり前だ!と叱られそうだが、実際に行ってみないと現実はわからない。
2時間くらい乗っただろうか・・・。車は高速道路っぽい道に出てスピードを上げた。建物が見えなくなって赤と白の給油塔が見えてきた。目の前に着陸態勢に入った旅客機が見えてきた。さらに進むとターミナルが見えてくる。私の頭の中でファンファーレが鳴った。やっと着いた。
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